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【アラベスク】  第6章 雲隠れ (前編)



第3節 意地も虚勢も実力のうち? [8]




「喧嘩売るってんなら、買うぜ」
 スッキリとした、整った顔立ちが怒りを込めてニヤリと笑う。伸びた髪が項を流れ、肩の上でスルリと垂れた。
「美鶴はどこだ?」

 実に忌々(いまいま)しい。

 瑠駆真はその、凄みを含んだ魅力に心内で舌を打った。
 鋭く、攻撃的な、それでいて人を惹きつけて離さない、絶対的とも思える力。
 瑠駆真の内には、存在しない。
 これが僕に、足りないモノなのだろうか?
 その思考は、聡の言葉で遮られる。
「美鶴は、どこだ?」
 答えないと、次はないぜ?
 そんな含みを伴う一言。
 その質問に答えるのは癪だ。だから瑠駆真は、敢えて曖昧な答えしか返さない。
「さぁ… ね」
 美鶴はやらない。
 小さな瞳を、意地だけで見返す。

「喧嘩、したらしいな」

 瑠駆真の一言に、瞠目する聡。
「その様子だと、本当らしいね」
「早耳だな」
「学年中、いや今頃は学校中の噂だよ」
 聡とは逆に、緩く瞳を細める瑠駆真。これまたなんとも気に入らない。
 自分を見上げる視線は、自分より下に存在しながら、どこか見下されているような錯覚。
 いや、錯覚なんかじゃあない。俺はこいつに見下されている。

 見透かされている。

 居心地が悪い。
 美鶴欲しさに醜態を演じる無様(ぶざま)な自分。そのすべてを見透かされているようで、腹が立つ。
 甘く円らな瞳と緩やかな物腰。なのにどことなく男性的で、弱々しさを感じさせない。
 自分よりもずっと博識で、そこからくる自信は聡を凌駕し、いくら口で罵倒しても、揺るがす事はできない。
 美鶴からの口車も挑発もスルスルとかわし、無駄のない動きで相手を丸め込む。
 冷静な判断力と、的確な機転。鋭い慧眼。
 我を見失い暴走するコトもあるが、それは美鶴への想いが強いから。
 そうだ。瑠駆真は、美鶴のためならば激しい力をも発揮する。

 (しと)やかさの中に潜ませる力強さ。

 気に入らないっ!
「おめぇにはカンケーねぇだろっ」
 吐き捨てて、視線を逸らす。
「いつだ?」
「あん?」
 再び対峙する相手の瞳。なぜだが苛立ちが含まれている。
「いつ、喧嘩した?」
「カンケーねぇって、言ってるだろ」
「夏休みか?」
「……」
「夏休み中だな?」

 くそっ どうして俺は、こうも嘘がヘタなんだっ!

 聡は答えず、瑠駆真とは離れて机の上に腰を乗せる。
「夏休み中に、美鶴と会っていたんだな?」
「一回だけだよっ」
 バンッと机を叩く。
 だが、そんな脅しに瑠駆真は怯まない。怯んでなど、いられない。
「何があった?」
「お前に言う義理はない」
「言わないと、美鶴の居場所、教えないよ」
「てめぇ〜っ!」
 勢いよく立ち上がる。
「脅してんのかっ」
「なんとでも言え」
 瑠駆真の涼し気な態度が、余計に聡を熱くさせる。
「何があった? なぜ喧嘩した?」
 言えるワケがない。
「美鶴はどこだっ!」
「なぜ喧嘩した?」
「殴られたいのか?」
「殴ればいい」
 その鷹揚(おうよう)とした言い返しに、聡の視界はガクンと揺れた。







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